Baby boo!
「……なぁ、仁菜、今日休みだったんだろ?お前やらなきゃいけないこと分かってんだろうな」
「え?あっ、ちゃんとドラマの再放送、録画セットしときましたよっ」
へへんと胸を張る仁菜。
休みだとは知らずに、もしかして俺より先に帰ってるかもと思って職場からメールしていたのだ。
「しかもちゃんと、毎週録画設定にしておきました」
どう?偉い?すごい?と、そう褒めてと言わんばかりの奴に、俺は愕然とした。
「ちげぇよ、不動産屋はどうしたんだっつの、さっさと引っ越し先探せよ」
そう言って仁菜を冷ややかな目で見下ろした。
「あ、彰人さん、その顔すごく怖いです……」
途端にぶるぶる震える仁菜。
さっきの件で学習したのか、両手でこめかみ付近を覆いながら。
「はぁ、俺の怒りが少しでも伝わってくれて嬉しいよ」
しかし、俺の怒りはちゃんと伝わっていなかった。
それに気付くのはこれまた数日後のこと。
最初は風呂場だった。
黄色いひよこの家族とかえるのおもちゃ。
湯船に浮かせると、光りながら歌を歌うらしい。
すると次はリビング。
いつの間にか、ソファーには犬とも猫ともいえない、なんだか不可思議なキャラクターが描かれたクッションが置かれるようになった。
そんな風に、奴の物が俺との共有空間に増えていったのだ。
しかしこの時点では、別に言う程のことではなかった。
元々部屋に物を置くのは好きではないが、これ位でとやかく言う程ではない。
もうこの時から、俺の部屋は奴という怪物に浸食され、俺の平穏な生活が脅かされ始めていたというのに。
そしてしばらくすると、俺がいない間にテレビのゲーム画面を点けたままリビングのソファーの上で寝転がっていることが増えた。
もちろん、テーブルの上にはジュースと食べ散らかした菓子の数々。
あぁ、俺のラグに食べかすが……っ、なんてことも。
その度にげんこつで頭を挟んでやるのだが、どうも効果が薄い。