Baby boo!
詳しい事情は知らないが、少しでも情を抱いてしまったのがいけなかったか。
元はと言えば、知り合ってまだ数日しか経っていないただの赤の他人なのだ。
能天気な奴に勝手に無害な奴だと油断していたのかもしれない。
家賃滞納で追い出されたって位だから、金に困っていたんだろう。
それなのに、財布をリビングのテーブルの上に置きっぱなしにしとくなんて迂闊だった。
だけど俺だって最初からまるっきり、警戒していなかった訳ではない。
リビングに財布を置きっぱなしにするなんてことも今回が初めてだったと思う。
……それがこんなことになるなんて。
きっと無意識のうちに気を許し始めていたのかもしれない。
いつも屈託ない笑顔で出迎えてくれるあいつに。
リビングのソファーに座れば、いつの間にか隣にひっついてくるあいつに。
人懐っこくて、何度その手を振り払ってもしつこくひっついてこようとするあいつに、俺はいつのまにか振り払うのを止めていた。
しぶとい奴に諦めたっていうのもあったが、単純に天真爛漫で毒気のないあいつの隣が、少し心地いいと思い始めていた。
そんな風に、確かに少しずつ情が湧き始めていた。
あんなにうざったいと思っていたのに。
その日、深夜過ぎた頃静かに玄関のドアが閉まる音がした。
あいつが、おそらくあの巨大なスーツケースを持って出て行ったのだろうと、ぼんやりベッドの中でそう思った。
……心配することなんかない。
あいつだってもうしっかり成人してるんだ。
ここらは治安のいい方だし、駅前まで出れば漫画喫茶だってビジネスホテルだってある。
……だけど、ちょっと酷だったか。
せめて次の住む場所見つけるまで、置いてやるべきだったか。
いや、でも。
これ位厳しくしないと、戻ってきてもあいつは甘えてまたつけあがるだけじゃないか。
だからと言ってこんな時間に若い女一人外をふらつくのは危なかろうか。
やっぱり迎えに行ってやろうか。
成人してるとはいえ、あいつの頭の中はまだまだお子様だ。
朝までどうやって過ごすつもりなのだろうか。
それとも頼るつてでもあるのだろうか。
どうしようか、変な奴に誘拐でもされていたら……っ