Baby boo!
おかえりなさいませ、ご主人さま♡
「おかえりなさいませ~、ご主人様っ♡」
フリフリのエプロンにピンク色のメイドの格好をした女の子がニコニコしながら猫撫で声でそう言った。
……おぉ、これが噂に聞くメイド喫茶か。
店内は白とピンクを基調にしたファンシーな空間が広がっていた。
働いている女の子は皆、メイド姿のミニスカで惜しげもなく足を出している。
そんなふわふわした雰囲気には、明らかにミスマッチなもさい客の男共。
どいつもこいつも浮かれた顔で、メイドさんを見ている。
そしてあちらこちらから聞こえてくる呪文めいた謎の言葉。
一瞬その雰囲気に飲まれそうになるが、あいつが仁菜がここで働いているかもしれないのだ。
なりふり構っていられない。
「お待たせしました~。こちら、くまたんオムライスになります」
そう言って水嶋が頼んだオムライスには、チキンライスでかたどった可愛らしいクマが一緒に乗っかってきた。
子どもが見たら喜びそうだ。
……しかし、これがいい年した大人の男を対象に出されているんだから世も末だ。
しかし、ただ運んできただけでは終わらないようで………
「それではー、これから更に料理をおいしくする魔法をかけまーすっ」
そんな掛け声とともに、謎の呪文を唱え始めたのだ。
「おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌えきゅんっ♡」
そう言いながら、手でハートを作り、胸元で左右に揺らす。
最後にそのハートをそのオムライスに向かって突き出し、「ぴぴぴぴぴぴぴーっ」とビームを発した。
唖然としながらその一連の流れを傍観していると、次の瞬間このメイドさんは信じられない台詞を言い放った。
「それではご主人さまもご一緒にお願いしますっ」
「はーい」
それに、にこやかに答える後輩。
さぞ楽しそうにメイドさんと一緒にさっきの台詞を唱える。
その様子に思わず、茫然としてしまう。
まさか、俺もこれをやらされるんじゃ……。
あぁ、軽はずみにメイド喫茶に来るんじゃなかった。
こんな高難度な試練が待ち構えていたとは……っ。