Baby boo!
「俺はな、こんなことしにここに来た訳じゃないんだよ」
「じゃあ、一体何しに来たんですか?俺のこと強引に誘ってまで来たかったんでしょう?」
そんなに、どうしても来たかったように言われるとなんとなく腑に落ちない。
俺はただ、あいつがここに働いてんじゃないのかと思って見に来たのだ。
「今日見せた名刺のいちごって女の子を探してるんだ」
「その子、先輩の知り合いなんですか?」
「知り合いっていうか親戚みたいなもんなんだけど、今訳あって一緒に暮らしててな。昨日ちょっと喧嘩して出てったもんだから心配で」
「出てったって、よっぽどひどいこと言ったんですか?」
「まぁ……」
かっとなって色々辛辣なことを言った気がする。
「でも、結局探しに来たはいいものの見当たらないんだけどな」
そう、さっきからちらちら探しているのだが一向に見当たらない。
もしかしたら今日は休みとか?
それか、あの名刺はただの客としてもらっただけとか。
ひょっとして、家に帰ってるなんてこともあり得るかも。
帰ったら「ごめんなさーい」といつもの間延びした声で謝って、出迎えてくれたりして。
……まあ、それは万の一つもないか。
自分が奴に言った最後の台詞を思い出す。
『人の金取るような妹なんていらねぇよ』
確かにそう言った。
言われた後のあいつの顔もしっかり覚えている。
今まで見たことのない程、悲しそうな顔をしていた。
いつも能天気にへらへら笑っている奴が、必死に泣かまいと堪えているようだった。
そんな奴が自ら帰ってくるようには思えない。