Baby boo!
ゴジラはその一部始終を見守ったのち、やっと納得がいったのか、やっと帰る気になったよう。
「もしまたここでまた顔を合わせるようなことがあれば、容赦無く家へ連行するからね」
そんなセリフを残して仁菜を睨む。玄関のドアが閉じてゴジラを見送り、コツコツと凶器のようなハイヒールの歩く音が途絶えたところでやっと生きた心地を取り戻した仁菜が口を開いた。
「彼女さん……ですか?」
「世話になってる先生の娘さんでな。断ったんだけど、あの性格だから聞かなくて」
「はぁ、また強烈な人でしたね。美人だから更に迫力が増すというか」
時計を見るともう少しで日付が変わりそうな時間。
「今日はもう遅いから、明日行こう。できるだけ早く帰ってくるようにするから」
そう言うと不安げに顔を曇らせる仁菜。
「彰人さん、やっぱり見知らぬ男性のところに寝泊まりするのは……」
「俺だってもとはそんなもんだったろ」
「違う、彰人さんとは運命のっ」
「分かった分かった、じゃあ他にお前ツテあるの?」
「……ない」
「大丈夫ルリルリの格好させられるだけで、それ以上は何もしないって言ってたから。別に女の子に不自由してる訳じゃないから変なことしないよ」
「ルリルリの格好?」
「分かんないけどメイドさんみたいな感じだろ。明日までに必要最低限の荷物まとめておけよ」
……これは、なんといった幸運の巡り合わせだろうか。体良く厄介者払いできる絶好のチャンス、なんとしてでも遂行させなくては。
家出した時はどっかで野垂れ死ぬかもという心配が付きまとったが、今回はそれがない。
まぁ、確かに仁菜がいなくなった時、少しの寂しさはあった。それは認めよう。
だがしかし、それは仁菜にひどいことを言ったという後ろめたさがあったせいもある。
なんの心残りもなく、仁菜が来る前のあの優雅な1人暮らしに戻れるとあれば、そんな寂しさなど屁でもない。
俺はやっぱりできるなら1人暮らしが良い人間だったのだ。
翌日、回診前の朝。水島に改めて礼を言った。
「水嶋、悪いな」
「いやいや、ルリルリちゃんなら歓迎っすよ。あのプニプニのほっぺ早く触りたい」
耳を疑うような発言に、思わず聞き返してしまう。
「……え?」
「え?」
それに対して、何かおかしなこと言いましたか?、とでも言いたそうな顔で逆に聞き返される。