カレとカノジョの関係。
♡おまけ もう一つの幼なじみ
蘭子は誰もいない廊下を一人、歩いていた。
全校生徒はまだ校庭で“高校生の主張”を聞いているところだろう。
すると、誰もいないと思っていた廊下の影から、不意に一つの人影が現れた。
「…夏樹?」
蘭子の幼なじみの神谷は、「お疲れ」といつも通りの落ち着いた声で言う。
その視線はまるで全てお見通し、だとも言っているようで…
蘭子は居心地が悪い。
「…見てたの?」
「声は聞こえなかったけど」
「あっそ」
蘭子は無言で神谷の横を通り抜けようとするが、トンッと、壁についた長い腕に行く手を阻まれる。
「…なに?」
「ありがと。結果的に蘭子が、希咲ちゃんの背中を押してくれたから」
「…夏樹、希咲ちゃんのこと好きだったんじゃないの?何アッサリ身引いちゃって」
「うーん、だってもう、湊くんには敵わないの分かったし」
「ふーん」
昔からこうだ。
何にも、執着心がなさそうに見える神谷。何事も容量よくこなすくせに、あっさりそれを手放したりするから蘭子には理解不能である。
「…いつか後悔するよ、ずっとそんな調子だと」
軽く睨みながら蘭子が言うと、神谷はちょっと驚いたような顔をして、そしてすぐにいつもの優しげな微笑に戻った。
「…大丈夫。本当に大事なものは、絶対手放さないって決めてる」
「…ふーん」
やっぱり夏樹はよく分かんない。一体何だ、本当に大事なモノって。あたしから見れば全部大事なもののように見えるけど。
蘭子は内心首をひねりながらも、ニコニコしている幼なじみに、考えることを諦める。
無理無理、夏樹の考えてることなんてわかりっこない。
「…いこっか」
2人は隣に並んで歩き出す。
誰よりも分かっているようで、実は誰よりも分かってないのかも。
―――幼なじみは奥が深い。