sEcrEt lovEr
★過去からの贈り物
腕の痺れるような痛さが眠りから覚醒させる。

しかし、それはいつもの目覚めのすっきりした感じとは程遠いものだった。

実は長い夢を見ていた… なんて物語のようなことが起こるわけでもなく、再び辛い現実が彼を襲う。

“こんなにも暗い影を心に落とすなら、いっそ自分をもその闇に引きずり込んで消してくれればいいのに”

小さな胸に刻まれた色鮮やかな記憶は黒く塗りつぶされていたし、涙はもう一滴たりとも残っていなかった。

｢Ken｣

この人に名前を呼ばれるのはいつぶりだろう。

祖父は少女とサイゴまで一緒にいた孫を咎めたり頭ごなしに怒ることはなかった。

｢It's your life｣
(これもお前の人生だ)

ただそれだけ言うと紙切れを目の前に差し出した。

日本行きの往復航空券だ。

お前は自分の手には追えんとでも言いたいのか、それとも静養がてら頭を冷やしてこいという意味か。

表情も変わらず、感情も剥き出しにはしないこの人の場合、実の孫でも何を考えているか未だに掴めないでいた。

｢I wanna go home…｣
(家に帰りたいです…)

一筋の雫が彼の頬を濡らした。
< 209 / 233 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop