sEcrEt lovEr
「じゃあ、手術前最後の診察しようかな」

その言葉を合図にママ達と神谷先生は一旦部屋を後にする。

あたしが見られながらだと恥ずかしいのを知っているから。

部屋に残るのはあたしと甲ちゃん… と、貴。

やっぱり朝早かったのが堪えたのか、その背中はぼんやりしてみえる。

「ゆっくり深呼吸してくれる?」

一方であたしは冷たい聴診器が胸に当てられ診察中。

こんなにもドキドキしてるのが ばれちゃいそうでいつもより恥ずかしい。

「こぉちゃん…」

「んー?」

普段 聴診中は声をかけないけれど、今日はドキドキをかき消すように名前を呼んでみる。

「あの… あたし…」

本当の気持ち、大切にしてた思い伝えなきゃ。

そう思えば思うほど、手は震え顔が熱くなる。

「あのね… き、きれいに切り開いてねっ!」

違うでしょ!何口走っちゃってんの、あたし?!

診察中 向こうを向いていた貴もフッと鼻で笑う。

「女体盛りは得意だもんな?」

背中越しに兄を弄る弟。当の本人はポカンとした顔をしていたけれど、聴診器を首に掛けると

「ニョタイ? …あぁ、コックさんか」

「板さんっつーんだよ」

ほぼアメリカンな彼が“女体盛り”を知っていることの方がびっくりです。

「あたし、まな板の上の鯛だね」

「鯉な…」

絶賛低血圧中にも関わらず、貴は鋭いツッコミを入れる。
< 221 / 233 >

この作品をシェア

pagetop