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知らなかった、貴が留学を考えていたなんて。

今まで一緒にいたのに自分のことばかりで、いかに周りが見えていなかったのか一瞬で痛感する。

もう一緒に通学することもなくなるんだね…

そう思うと急に胸の奥がえぐられるような感覚が襲ってくる。

「そんな顔すんなって。落ちたらそのまま稜南なんだし… まぁ、落ちないけど」

わざと笑い飛ばしてみせる貴。

そうだね… でも我が高のトップが落ちるなんて限りなくゼロに近いよ…

「お前にはアイツがいる。それでいいんだ。

一言で構わないから気持ちは伝えろよ?後悔しないようにな」

“俺みたいに”と聞こえるか聞こえないかという小さい声でそう漏らすと、背を向け窓の外に視線を移す。

あたしはその後ろ姿を見つめたまま、それ以上話すことができなかった。

「絹香ちゃん、そろそろ移動しましょうか」

静まり返った病室に顔馴染みになった看護師さんの声が響いた。
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