sEcrEt lovEr
一歩一歩、手術室に近づいていく…

刑が執行される人はこんな気持ちなのかな。

自分の意思とは関係なしに、時間になったら有無を言わずに執り行われる。

天使に手をひかれているような、悪魔に突き落とされるような そんな気分…

ずうっと変わらない天井が頭上を流れていくのを見ながら、ぼんやりとそんなことを思う。

大丈夫、大丈夫…

数時間後には心臓も元気を取り戻して、きっと肌色も今よりキレイなピンク色に戻るんだから。

ここまで来て怖気づいている暇はない

…はずなのにそれでも直前になって負の感情が湧き出てくるのはやっぱり緊張しているからだと思う。

娘の不安な気持ちに寄り添うように、ベッドの横でママは手を握っていてくれた。

「ねぇ、絹。元気になったら何したい?」

「うーん… ママと旅行に行きたいな。

それで自然の中で 思いっ切り走りまわりたい…」

「野生児みたいな夢だな」

反対側から口を挟む貴。

悠耶さんにほっぺをつねられている。

そのやり取りにベッドを押してくれる看護師さんもクスクス笑っている。

長い長い廊下を抜けると“中央手術室”の文字が見えてきた。
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