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手術台に乗ると、すぐさま機械が取り付けられる。

手馴れたその感じはF1のレーシングチームのピットワークをも連想させる。

もっとも今のあたしには走り出すような体力なんてないけれど…

されるがままの状態で、頭上で飛び交う声に耳を傾ける。

…横文字ばかりで一般人には理解不能。

ふと、その中に聞きなれた声を見つける。

意識を手放す前に顔出してくれるのは彼なりの優しさ… と思っていた矢先、

「言い残したことはない?」

「…っ!?」

こんな時までふざける執刀医、それが甲ちゃん。

これは後で悠耶さんに報告しなきゃ。

独特のピリピリした空間では浮いた存在の彼に本当に命を預けてもいいのかなと直前になって不安になる。

「あの~… そろそろ麻酔入れていいですか?」

申し訳なさそうに横から声を掛ける麻酔科の先生。

「どうぞ、どうぞ。やっちゃってください」

執刀医はそう言うけど、やられるのはあたしだから!

「待って!」
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