社内恋愛なんて
その時、トントンと車の窓ガラスを叩く音が聞こえて、私たちはハッと我に返った。


二人とも慌てて上体を起こし、乱れた髪や服を整える。


幸いにもお互い服は脱いでいなかったから、すぐに人前に出れる格好になった。


 部長は運転席側に戻り、窓ガラスを開けた。


すると、黒い傘をさした中年の男の人が車内を覗き込むように顔を寄せた。


「困るんですよね~、ここに駐車されると」


 顔を見ると、話しかけてきたのは大家さんだった。


「でもここ、来客用駐車場ですよね?」


 部長が落ち着き払った顔で応対する。


「そうですけど、使う時は予約してくれないと」


 大家さんは不快感を露わにした顔で言ったので、私は慌てて二人の間に割り込むように身を乗り出した。


「すみません! 私、ここの住民なんですけど、送ってもらっただけで。もう降りますから! すみません!」


 何度も頭を下げながら謝った。


こんなことでトラブルを起こしたくないし、部長に迷惑をかけたくない。


 助手席のドアを開けて、勢いよく外に出た。


雨は強く、すぐにびっしょりと濡れた。
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