社内恋愛なんて
「部長、ありがとうございました」


「礼はいいから、早く建物に入れ」


「すみません」


 部長にぺこりと頭を下げて、不機嫌な表情の大家さんにも再び頭を下げて、四階建てマンションの入り口に走った。


屋根の下に入り、息を切らしながら振り向くと、大家さんに睨まれているのが気まずいのか、部長はエンジンをかけて車を発車させた。


 暗くて部長の顔が見えない。


部長は私にさよならと言うように、ハザードを二回ほど光らせて走り去ってしまった。


きちんと会話もできないまま呆気なく別れてしまった。


 恨めしい表情で大家さんを見ると、車がいなくなってせいせいしたのか、一仕事終えて晴れ晴れとした顔で歩いて行く。


 後に残された私は、あの出来事はなんだったのだろうと混乱するばかりだった。


おぼつかない足元で部屋に入り、ベッドにダイブする。


胸の鼓動がまだバクバクと鳴っていた。


そっと指先で唇に触れると、部長の唇の感触を思い出して、途端に顔が赤くなった。
< 12 / 359 >

この作品をシェア

pagetop