社内恋愛なんて
「いや、それはないと思う」


「どうして言い切れるの?」


 守はまた黙った。


どんな風に言えばいいのか考えている様子だった。


「仮定の話は、確かに分からない。

でも、お互いがフリーな状態だったら、そもそもこういう関係にはなっていなかったかもしれない。

例え美奈子が今、旦那と別れたとしても戻ることはないから。

特殊な状況下で、のぼせた状態での好きだったんだと思う」


 要は、互いが浮気相手同士だから盛り上がっていたのだと、そう言いたいのかなと思った。


「今は好きじゃないの?」


「うん」


「どうして?」


「みあのことが大切だって気付いたから」


 何を今更。


鼻で笑ってしまいたくなった。


でも、そう言われて少しほっとしている自分もいた。


私のことなんて、どうでもいいと思われて、傷付けるだけ傷つけておいてポイと捨てられたら、更に心臓が抉られてしまう。


「たくさん傷つけておいて虫のいい話だと思うけど、別れたくない」


 守は切実な様子で、私の目をじっと見た。
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