社内恋愛なんて
守と話し合いをした次の日、会社で会った時に守からおはようと挨拶をしてきた。


ほんの少し口角を上げてとても優しい口調だったけれど、瞳は怯えたように私の顔を伺っていた。


私もぎこちなく笑顔を作りながら、おはようと返した。


それで終わり。


でも、確かに一歩進んだ気がした。


けれどそれから何度、涙を流しただろう。


前に進めたと思っても、ほんの少しのことで落ち込んだり思い出したり。


一進一退を繰り返しながら、ただ歯を食いしばって前に進もうと頑張ってきた。


何度も会社を辞めようと思った。


守を見かける度に辛くて、守が話しかけてくる度に泣きそうになった。


憎しみよりも、湧き上がってくるのは恋心で、どうしてあんなに辛い目にあったのに胸がときめいてしまうんだろうと悲しくなった。


守は浮気者の最低な男だけど、やっぱりどこか憎めない人間味溢れるところがあって、そこに惹かれて好きになったのだから嫌いにはなれなかった。


浮気発覚当初は、狡猾で腹黒くて怖い人間だと思ったけれど、時が経ち冷静になって守を見ると、後先考えないただの純粋な馬鹿だったんじゃないかと思えてきた。
< 146 / 359 >

この作品をシェア

pagetop