社内恋愛なんて
「ああ、いいの。コンビニで傘買っていくから」


 気遣ってもらわなくて大丈夫だという意味合いで手を振ると、後輩の女の子はその案には納得がいかないようで、うーんと考え込むように唇を尖らせていた。


彼女は素の性格が面倒見がいい優しい子なのだ。


「俺が送っていく」


 部長はさっき置いたばかりの黒のトレンチコートと通勤バッグを持って、椅子から立ち上がった。


「えっ!?」


 驚いて部長を見ると、もう帰る気満々の様子だ。


「ああ、それがいいですよ!」


 後輩の女の子は満面の笑顔で手を叩いた。


 よくない、よくない! 


余計なこと言わないで!


 青ざめながら顔を振る。


「いいえ、部長にそんなお手間を取らせるようなことできません。

私は大丈夫ですから。

そんなに雨強くないですし」


 丁重にお断りをする。


好きな気持ちを必死で抑えようとしているのに、また部長と二人きりになったら気持ちが爆発してしまう。


ついでに心臓も爆発してしまう。
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