社内恋愛なんて
地下駐車場に着くと、80台ほどの車が停めてあった。


ほとんどが幹部や役員などの高級車ばかり。


部長の車は黒のプリウスで、ベンツなど外車が並ぶ中に混ざると庶民的に見えるけれど、部長らしくて私はこの車が好きだった。


派手さを好まず、エコにも気を使った国産車ならではのしっかりとした造り。


堅実で、結果よりもプロセスや中身を重視する部長の性格が表われているようだ。


 遠隔キーで鍵を開けると、運転席に乗り込む前に助手席のドアを開けてくれた。


多くは語らないけれど、さらりとこういう気遣いをしてくれるところが素敵だなと思う。


恐縮しながら助手席に乗り込み、シートベルトを締める。


 部長の車に乗るのは、今日で二回目。


あの時も雨が降っていた。


そして、あの時から急激に部長との距離が縮まったんだ……。


あの日のキスを思い出して、胸がきゅーっと締め付けられた。


甘酸っぱい記憶。


恥ずかしいけれど、大切な思い出。


あの時の気持ちがよみがえってきて、シートベルトを握りしめたまま俯いた。


赤くなっている顔を隠すために。
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