社内恋愛なんて
部長が運転席に座り、エンジンをかけた。


真っ直ぐ前を見つめる横顔がとてもかっこ良くて、至近距離で見つめられるこの場所は、やはり特別だと思った。


オフィスの中とは違う密室空間。


ハンドルを操作する手が、とても色っぽく見えるのはなぜだろう。


 会社を出て国道を走る。


ワイパーの動きはゆっくりで、あの日のような激しい雨ではなく、しとしとと静かに降っていた。


 緊張して喉が渇く。


手に汗が滲み出てきていた。


「雨に感謝しないとな」


 ふと、部長がひとり言を呟くように言った。


「どうしてですか?」


「湯浅をまた送っていくことができたから。雨のおかげで二人きりになれた」


 部長は前を見ながらさらりと言ったけれど、かなり直球の言葉を投げかけられた気がする。


好きだと言ったあの日の言葉に上書きするように。
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