社内恋愛なんて
「誤解のないように言っておくが、誰にでもこんなこと言ってるわけじゃないからな。

前に湯浅を車で送った時からかなり積極的になってるが、こんなに後先考えずに気持ちのまま押すことは初めてなんだ。

女慣れしているとか思ったかもしれないが、実際は全然で……」


「ふふっ」


 動揺して饒舌になっている部長が可笑しくて、つい笑ってしまった。


すると部長は、平静を失い、勢いよく話し過ぎたことに気が付いて、きまりが悪そうに口を噤んだ。


「分かってます。部長が誠実な人だってことは」


 部長はとってもモテるけど、女性慣れしていないことは、毎日一緒に仕事をしているからよく知っている。


不器用で、少し誤解されやすいところも。


怖そうに見えるけど、誠実で優しい人柄も。


「……そう言われると、嬉しいよ」


 部長は、少し恥ずかしそうに微笑んだ。


 ああ、一緒だ。


はっとして気が付いた。


さっき、私が思っていた事と。


押しに弱い軽い女に思われていたらどうしようと不安だった。


部長も、不安だったのかもしれない。


帰りの車内でキスしてきたから。


でも私は、部長のことを軽い男だと思ったことなんて一度もない。


それは、部長のことをよく知っているからだ。
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