社内恋愛なんて
 私もすっかり身体が熱くなっている。


でも、それとこれとはまた別の話だ。


部長と一線を越える覚悟はできていない。


まだ理性が残っていた。


「ごめんなさい、それはできません」


 部長の身体を軽く押して、断りの言葉を口にした。


部長は、不服そうにしながらもこれ以上距離を詰めてくることはしなかった。


 沈黙が流れ、気まずい空気が車内を包む。


「……傷付くのが、怖いからか?」


 下を向いていた私は、自分の心情をピタリと言い当てられたことに驚いて顔を上げた。


「どうして、それを……」


 震える唇で尋ねた私に、部長はやっぱりかと言う顔をして、ふーっとため息を吐いた。


「湯浅は覚えていないだろうが、酔って泊まったあの日、一線を越えそうになった時、傷付くのが怖いと言ったんだ」


「一線を越えそうになった?」


 部長とはあの日、何もなかったと思っていた私は寝耳に水の話だった。


びっくりしている私に、部長は気まずそうに目を逸らした。
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