社内恋愛なんて
「ごめんなさい。もう帰ります。ありがとうございました」


 早口で言って、ドアを開けた。


部長は慌てて私の腕を掴む。


「待て! どうしたんだ、一体」


 振り返り、部長の顔を真っ直ぐ見つめた。


「私のことは諦めてください」


「諦められない」


 すかさず、はっきりと言われた。


部長も真っ直ぐに私を見つめる。


「放してください。今日は本当に、もう帰ります」


「帰したくない」


 部長は私の腕を掴んで、真剣な眼差しで言った。


次の言葉が出なかった。


嬉しいけれど、切ない。


だって、部長の気持ちに応えることができない。


私も好きだけど、好きだから嫌われたくない、傷付きたくない。


本当にもう、帰りたかった。


お願いだから、この手を放してほしい。


冷静でいられる自信がなかったし、もう部長と触れ合えるような心境じゃなかった。


 私の顔を一心に見つめていた部長は、残念そうに瞳を逸らし、腕の力を緩めた。


「……分かった。すまん、俺の気持ちを一方的に押し付けすぎた」


 放された手。


放してほしいと思っていたのに、胸がぎゅっと苦しくなる。
< 175 / 359 >

この作品をシェア

pagetop