社内恋愛なんて
「な、なんでもありませんよ」


「嘘つくな、さっき指を切っていただろう」


 背中に隠した手を強引に掴み上げる。


「ほらやっぱり、血が出てる」


「これくらいの傷、大丈夫です」


「お前はすぐに我慢をするから。早く消毒して。ええと、救急箱はどこだったかな」


 部長は辺りを見回し救急箱を探しているようだった。


受付の女の子たちは、部長のあまりの慌てぶりに驚いて固まってしまっている。


「絆創膏、持ってますから。自分のデスクの中に入ってるんで大丈夫です」


「そうか、じゃあすぐに取ってきて……ああ、その前に手を洗った方がいいな」


 部長は私の手を掴んだまま離さない。


まるで私が大きな怪我をしたみたいな扱いに、こちらが困ってしまう。


ちょっと手を切っただけなのに……。


「オフィスまで取りに行くのは面倒でしょう。私も持ってます、絆創膏」


 瀬戸内さんはポーチから絆創膏を取り出して、私に渡してくれた。


「おお、ありがとう、瀬戸内」


 なぜか私の代わりにお礼を言う部長。
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