社内恋愛なんて
「そうだけど、皆に聞こえるような大きな声では呼んでないでしょ」


「大丈夫だよ。誰も気にしてないって」


 誰も気にしていないというのは、皆の様子を見れば分かる。オフィスの中で大きな声で人を呼ぶのも、平然と下の名前で呼ぶのも、守のキャラクターが周知されているから何とも思われないのだ。


これが他の人だったら皆びっくりするだろう。


例えば、部長がみあなんて言って手でも振ってきたら……。


想像してみたけど、あまりにも現実味がなさすぎる。


「まあ、いいけど。何の用?」


 私は守に背中を向けてシュレッターをかける作業を再開した。


「なんだよ今日は機嫌が悪いな」


 そりゃ悪くもなりますよ。


社内恋愛恐怖症になった元凶が目の前に現れたら。


 無視して作業を続ける私に、むっとした顔を浮かべるも、すぐに切り替えて人懐っこい笑顔を向けてくる。


「今日の夜、同期会やるだろ。みあも来るよな?」


 今から夜が待ちきれないといった様子で、声が弾んでいた。
< 20 / 359 >

この作品をシェア

pagetop