社内恋愛なんて
「無理だよ。もう、無理だよ……」


 私はあの時のことを忘れることはできない。


どんなに守が償ってくれても、忘れられる日はやってこない。


だから無理。


どう頑張っても、無理なものは無理なんだ……。


 守は俯き、悔しそうに唇を噛みしめていた。


壁についていた手は下ろされ、拳をぎゅっと握っている。


彼は涙を堪えているように見えた。


守としっかり別れるためにカフェで話し合いをした時のことを思い出す。


あの時も、守は悔しそうだった。


悔しくて悲しくて、自分を責めていた。


いつも明るく朗らかだった守の顔は、青ざめていてとても疲れているようだった。


 そんな姿を見ると、怒りが急速に萎んでしまう。


罵声を浴びせたいほど怒っているはずなのに、彼の心配をしてしまう。


泣いている子供をあやすように、柔らかく抱きしめて背中をとんとんしてあげたくなる。


どうしてだろう。


あんなに酷いことをされたのに、守ってあげたい感情が湧き上がってくる。


 ……でも駄目。


私にはもう部長がいるから。


守の気持ちに応えることはできない。
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