社内恋愛なんて
「……はい。じゃあ、また今度……」


 部長の優しさに乗っかってしまった臆病な私。


胸がズキンと痛む。


ごめんなさい、部長……。


 そして私を家に送り届けると、最後に軽いキスをした。


名残惜しく感じる。


ずっと一緒にいたいと思うけれど、最後の一線を越える勇気がまだない。


「さようなら、誠一郎さん」


「ああ、またな」


 車を出て、助手席のドアからのぞき込むようにして言った。


ドアを閉めて、軽く手を振る。


今日は本当に楽しかった。


臆病な私はまだ治っていなかったけれど、大きな一歩を踏み出せた気がした。


いつか……遠くない日に、私はまた一歩を踏み出す。


部長と心も身体も結ばれる、遠くない未来。


想像するだけで緊張してしまうけど、その日は絶対に訪れる。


いつかのその日までに覚悟を決めよう。


きっと部長はゆっくり待ってくれるだろう。


でも、それじゃいけない気がする。


早く、覚悟を決めなくちゃ。


好きです、部長。


だから、もうちょっとだけ、待っててください。
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