社内恋愛なんて
「ああ、もうついてねぇなあ」


  パチンコ屋から出て、いかがわしい店や古びた看板が並ぶ路地を、ポケットに手を突っ込みながら歩く。


日が暮れて、肌寒くなってきた。


せっかくの週末に、一人で何やってんだろなあと空を見上げながらため息が出る。


俺、狩倉 守(かりくら まもる)29歳。


大手電子機器メーカーの営業をやっていて、収入はそこそこ貰っている。


両親は健在で、俺より7つと6つ上の姉貴が二人いる。


歳が離れているせいか、姉貴たちに可愛がられ、両親には溺愛されて育った。


私立の小学校を受験して、それからエレベーター式で大学まで行き、希望する会社に就職できた。


俺の周りにはいつも自然と人が集まってきて、友達関係で悩んだこともない。


傍から見れば、何不自由ない生活。


でも、全然満たされていない。


俺は今、人生で初めての挫折と壁にぶち当たっている。
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