社内恋愛なんて
ずっと器用貧乏で、夢とか目標とかがなかった。


これが欲しいとか、こうなりたいとか強く願ったこともなかった。


それが今、こうなりたいというはっきりとした将来のビジョンを思い描くことができた。


でも、それはどうやら叶わない夢らしい。


どんなに努力しても、何かを犠牲にしたとしても。


これほど強く願ったことはないのに。


俺の夢は、温かい家庭をつくることだ。


大きなことは望まない。


平凡でいい。


当たり前のことを当たり前に過ごしたい。


それなら簡単にできるだろうと思われるかもしれないが、これには一つ大きな条件がある。


「湯浅みあ」と結婚して幸せな家庭をつくりたい。


一度は手に入れかけた幸せだった。


でもその頃は、その幸せに気付いていなかった。


その時の俺には当たり前のことだった。


好きな女性と結婚して、家庭を支えるために仕事をする。


誰もが手に入れられるありふれた幸せに思えた。


幸せなのに、物足りなさを感じていた。


これでいいのか、俺の人生って。


もう未来が容易に見えてしまって、漠然としたつまらなさを抱えていた。


願えば何でも手に入っていたから、その有難さに気付くことなく大人になっていたのかもしれない。
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