社内恋愛なんて
常識のある優しい両親の元で育って、お金に苦労したこともないし、愛情に飢えたこともない。


少しお調子者だけど、思いやりのある優しい子だと周囲に言われて、伸び伸び育ってきた。


今までに何か悪さをしてきたこともない。


イジメも非行とも無縁だった。


悩みがあるとすれば、器用貧乏で何かに必死になって取り組んだことがないというくらいだった。


元々頭が良かったから、勉強もあんまりしなくても要領よくやってこれたし、運動神経も良かったからできないものなんてなかった。


女の子にもモテた。


初めてできた彼女は中学生の時で、その子とは4年間付き合っていた。


モテるけど女遊びをしたいとは思わなかった。


モテるからこそ余裕があったのかもしれなくて、好きな子と以外遊びたいと思ったことがない。


浮気をする奴は最低だと思っていたし、そんな奴とは友達にもなりたくなかった。


それなのに、俺は……。


成人し就職して、結婚もするとなって、突然不安にかられたんだ。


女性のマリッジブルーみたいなやつだったのかもしれない。


安定した未来がそこには広がっていて、なんだか少しだけ遊んでみたくなった。


独身最後に、ぱあっと羽を伸ばして、ありふれた日常にほんの少し刺激が欲しかった。


ただ、それだけだったんだ。
< 241 / 359 >

この作品をシェア

pagetop