社内恋愛なんて
美奈子と一線を越えてしまった夜。


あの日、俺は絶対に踏み入れてはいけない世界に入ってしまったんだ。


それがどんなに罪深いことかも分からずに。


何も考えず、何も怖れず、ただちょっとした好奇心で。


ギャンブルでちょっとお金を使い過ぎたくらいの感覚だった。


みあには内緒でパチンコ屋に行って、数万負けてしまったくらいの、そんな感覚。


でも、実際は麻薬並みに依存性があって、倫理を破壊し、大切な人を失う、とても恐ろしい行為だった。


 どうして俺は、失うまで分からなかったんだろう。


いつから俺は最低な人間になっていたんだろう。


小さい頃から、優しい子だと色んな人が俺を褒めてくれていた。


泣いている子がいたら手を差し伸べる子だった。


両親の自慢の息子で、思いやりのある友達が周りにいて、守は絶対浮気するタイプじゃないよな、なんて言われていたりもした。


 本当に優しい子だったら、浮気なんてしない。


好きな人を悲しませるようなことは絶対にしない。


俺はどこから変わってしまったんだろう。


本当の俺は、美奈子に前で見せた、自分勝手で甘えん坊で目先の快楽のことしか考えない馬鹿で最悪の男だったのだろうか。


分からない、自分でも。


どれが本当の自分なのか、今でもさっぱり分からない。
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