社内恋愛なんて
でも、俺の気持ちは誰にも言えない。


親友の吉川にすら言えない。


俺はスマホをポケットに仕舞って、びしょ濡れになりながら路地を歩く。


 あの日失ったものは、みあだけじゃない。


何でも話せる親友と、結婚を楽しみにしていた両親。


吉川に言った嘘の別れの理由を、両親にも伝えた。


俺が全面的に悪くて、浮気したことは真実だ。


でも、浮気の内容は少し違っている。


それでも親父は「馬鹿野郎!」と怒鳴って、俺を力任せに殴った。


お袋は泣いて「みあさんが可哀そう」とポツリと呟いた。


なんとも言えない気分だった。


唇を噛みしめて、涙を必死で堪えた。


そう、悪いのは全部俺。


親戚や近所の人達に、俺が結婚することを嬉しそうに話していたことを知っている。


自慢の息子だったのに、両親の顔に泥を塗ってしまった。


親父やお袋は、皆になんて説明したのだろう。


きっと、曖昧に濁したんだろう。


息子が浮気して破談になったなんて、恥ずかしくて言えるはずがない。


俺は恥ずかしい息子に成り下がってしまった。
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