社内恋愛なんて
「おい、俺を殴れよ」


「は?」


 予期しない言葉だったのだろう。


男は顔を歪めて俺を見る。


「俺は一切手を出さねぇから、気が済むまで俺を殴れよ」


 二人相手に思いっきり殴り合いの喧嘩をしてみたかったが、そんなことしたら会社を首になる。


それに何より、ボコボコに殴られたい気分だった。


それで俺の罪が少しでも軽くなら、どんなに殴られたって構わない。


きっとみあが受けた傷は、殴られるよりも痛かっただろうから。


「何してんだよ。早く殴れよ」


 赤く充血した目で、薄笑いを浮かべながら男達に詰め寄った。


男達は明らかに困惑した表情を浮かべていた。


「殴れって言ってんだよ!」


 ドスのきいた声で怒鳴り上げると、男たちは狼狽(ろうばい)して後ずさった。


「やべぇよこいつ。いっちゃってるよ」


「こういうタイプが一番やべぇ」


 こそこそと話し込み、後ずさりしながら俺から離れていく。
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