社内恋愛なんて
守のことを思い出して、胸に小さな棘が刺さる。


古傷はまだ痛むけれど、でも痛みは昔ほど酷くなくて、痛む時間も短くなっている。


一生治らない傷だと思ってたけど、いつか痛まなくなる日が来るのかな。


来るといいな。


 そう思っていた時だった。


書物庫のドアが開く音がして、振り返るとそこには守が立っていた。


守のことを思い出していたから、一瞬幻かと思った。


呆気に取られた表情で守を見つめると、守も驚いたように固まっていた。


「何してんの?」


 守はなかなか中に入ってこようとせず、突っ立っているので私から話しかけた。


すると守は、少し気まずそうにしながら入ってきた。


「そっちこそ、何してんの?」


「書物庫の整理」


「そっか。ご苦労様」


 守はあまり私の顔を見ようとせずに、すぐに本棚に目線を移した。


借りていた分厚いデータファイルを本棚に戻そうと、置き場所を探しているようだった。
< 264 / 359 >

この作品をシェア

pagetop