社内恋愛なんて
部長は、考え込むようにしばらく黙っていた。


沈黙の時間が流れる。


唇を噛みしめて、拳をつくり、ぎゅっと指先を握りしめた。


 浮気をされたことがある女性のことを、他の男から軽く扱われた女として軽視する男性もいるらしい。


だから、浮気されたことがあると言うことは、黙っていた方がいいと聞いたことがある。


悪いことをしていないのに、どうして後ろめたい気持ちにならなきゃいけないんだろう。


浮気はどこまで私を苦しめ続けるんだろう。


 新しい恋をして、ようやく前向きになれたところだったのに。


過去に振り回されてばかりいる。


「辛かったんだな」


 私の言葉を代弁するかのように呟いて、優しく頬を撫でた。


温かな指先の感触と優しい言葉に思わず涙が込み上げてくる。


「……っ」


 目をぎゅっと瞑って泣くのを我慢していると、部長の胸に引き寄せられた。


「打ち明けてくれてありがとう。

ようやく、みあが背負っている辛さを知ることができた」


 力強くぎゅっと抱き締められる。


目の奥が熱くなって、堪え切れずに涙が溢れ出した。
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