社内恋愛なんて
「でもやられたままじゃ癪だったんで、お返しに顔面にばしゃっと水をぶっかけてやりました」


 その時のことを思い出して、グラスで水を掛ける動作をすると、部長は一瞬固まってそれからぶはっと笑い出した。


「みあがそんなことするなんてな」


「引きました?」


「いや、見直した。よくやった」


 部長の笑顔にほっとして、私も口を開けて笑った。


二人並んで歩くこの距離が、いつもよりも自然で、しっくりと落ち着ける空気感が流れている。


 部長が何も言わずに私の手を握る。


当たり前のように繋がれた手が、二人の距離を更に縮めてくれている気がする。


雨上がりの虹を見上げながら笑いあう。


部長の家まで、あと少し。


 部長の家は30階建てのタワーマンションだった。


木々や草花が植えられた綺麗なアプローチを渡りエントランスに入ると、ノンタッチキーシステムのオートロックがあった。


そして更に中に入ると、コンシェルズカウンターもあるホテルのロビーのようなエントランスホールが広がっている。
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