社内恋愛なんて
 守はほっとした様子で、注文して届いたばかりの生ビールを一気に半分ほど飲んだ。


「話したいことってなんだよ」


 吉川さんが訝しげに言う。


「ないよ、そんなの」


「けっ、相変わらずモテるね~」


「好きな子からモテなきゃ意味ないし」


 守は憮然とした顔で、枝豆をぽりぽり食べている。


すると吉川君は驚いた顔をして、守にずいと近寄った。


「えっ! 好きな子できたの!?」


守は大きな声を出した吉川君の顔を、さも迷惑そうに眉をしかめて見つめ返した。


「ずっと前からいるし。変わってねぇよ」


 守の言葉に、吉川君は「なんだ」と言って椅子に深く座り込んだ。


 ……好きな子、いたんだ。


彼女がいるって言われたって、別に落ち込むことはないけれど。


「いいかげん、そろそろ諦めればぁ?」


 吉川君は呆れたように言った。


守は相変わらずの表情で枝豆をぽりぽり食べている。


「諦められないから、今でも好きなんだよ」


「守は一途だねぇ」


 二人の会話を聞いていた同じテーブルに座っている人たちが、うんうんと吉川君の言葉に賛同するように頷いた。


 私は守を一途だとは思わない。


どんなに長い間報われない相手に恋をしていたとしても、守が一途だとは思わない。


絶対に、何があっても、思わない。
< 31 / 359 >

この作品をシェア

pagetop