社内恋愛なんて
「湯浅」


 守から名字で呼ばれて、思わず驚いて肩が上がる。


「いい男ゲットしたな。やるじゃん」


 守は悪戯小僧のような笑みを浮かべた。


「なっ……ばっかじゃないの。

今頃気付いたの?」


 私は恥ずかしくて顔を真っ赤にさせながら精一杯の虚勢を張った。


「言うねぇ」


 と、けらけら笑いながら守は行ってしまった。


わだかまりが解けて、これから普通に接することができそうだと感じた。


 守がいなくなったことにより、誠一郎さんと二人きりになった。


怒ったお客さんを笑顔にさせ、守のことも解決してくれて、すごく頼もしくて、かっこよくって、なんだか無性に抱き付きたくなった。


でも、二人きりになったといっても、ここは会社。


微妙な距離を置きながら、二人並んでエレベーターを待つ。
 

部長はなぜか黙っていた。


だから私も黙ってエレベーターに乗り込んだ。二人だけの密室空間。でも、監視カメラがついているので何もできない。
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