社内恋愛なんて
 皆の前ではなんとか平気なふりをして歩いたけれど、化粧室に続く細い廊下で、店内からこちらの様子が見えないことを確認すると、ほっと安堵して壁に手をついた。


 足がガクガクしている。


本当は真っ直ぐ歩くのも難しかった。


けれど、理性はあったので気合いでここまで辿り着いた。


 ああ、まずい、どうしよう。


帰りたいけれど、とてもじゃないけれど一人で駅まで歩いて帰れる状態じゃない。


お酒が弱いのに、どうしてあんなに生ビールを一気に飲んでしまったんだろう。


「大丈夫?」


 後ろから声を掛けられて、慌てて姿勢を直して振り向くと、そこには首を傾げて心配そうに見ている吉川君がいた。


「うん、全然平気!」


 こんな状態になってしまったのは自己責任なので迷惑をかけるわけにはいかない。


しかも友達との飲み会ならまだしも、社内での飲み会だ。


なんとかこの状態を皆にバレずに切り抜けたい。


「それならいいんだけど。なんか辛そうに見えたから」


「そんなことないよ。どうしたの? 吉川君もトイレ?」


「いや、湯浅に聞きたいことがあって……」


「聞きたいこと?」
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