社内恋愛なんて
「嘘っ!」


「うん、嘘」


 部長は平気な顔をして言った。


え、どういうこと? 


私は意味がまったく分からなくて、思わず眉間に皺を寄せて部長を睨みつけた。


「何が嘘なんですか? からかわないで本当のこと教えてください! 私、全然覚えてなくて……」


「すまん、すまん。抱いてっていうのは嘘。でも、帰らないでって泣きつかれたのは本当だ。本当は送り届けたらすぐ帰る予定だったんだ。勝手に上がって、泊まってしまってすまなかったな」


「いえ……。私の方こそ迷惑かけたみたいで。じゃあ、昨日は何もなかったってことですか?


 私の問いに、部長は一瞬視線を泳がせた。


「セックスしたかどうかってことを聞いてるんだよな?」


 直接的な言葉にドキリとした。部長の口からその言葉が出てくるとなんだかびっくりしてしまう。


「は、はい」


「それならしてないよ」


 それならってなんだろう、と思ったけれど、ひとまず安心した。


酔って覚えていないけれど、部長としてしまった、なんてことになっていなくて良かった。
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