社内恋愛なんて
「それなら、あの、教えていただかなくて結構です」


 手を横に振りながら、出来る限り丁寧に断った。


私と部長は何をしたんだろう。


もしかすると、けっこう際どいところまでいってしまったのかもしれない。


「本当に知らなくていいのか?」


 部長はぐいと顔を近付けて言った。


私が知りたいと言うのを無理やり引き出そうとするかのような強い口調だった。


「はい、知らない方がいいということもあると思います」


 だって知ってしまったら、もう後戻りはできない。


「……そうか、分かった」


 一拍分、間を置いて、部長は少し残念そうに言った。


そして私から離れるように、ベッドから起き上がった。


「ぶ、部長?」


 ベッドを出て、立ち上がった部長の背中を見て思わず呼びかける。


「なんだ?」


 振り向かれるも、言葉が出ず、部長から視線を外して「すみません、なんでもないです!」と頬を赤らめながら言った。


部長は小首を傾けながら、床に落ちていた自分のシャツを拾った。


 ――なんで上半身裸なの!?
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