社内恋愛なんて
　部長がソファに座ったことを横目で確認すると、コーヒーメーカーで作った淹れたてのエスプレッソをコーヒーカップに注ぎ、丸テーブルにそっと置いた。


「部長はブラックでしたよね？」


「ああ、すまない」


　お盆で口元を隠しながらふふふっと笑うと、部長は不思議な顔で私を見た。


「なんだか今日の部長、すまないばかり言っています」


「それは、そうなるだろう」


「いつもは怖い顔して仕事してるのに。今の部長はまるで借りてきた猫みたいですよ」


「怖い顔とは心外だな。まるでいつもオフィスでは威張っているようじゃないか。ただ真剣に仕事すると口数も減るし、目付きが鋭くなってしまうんだ」


「ええ、知ってます」


　慈しむような眼差しと声を落とした。


いつも一生懸命に頑張っている部長を、近くで見ていましたから。


最初は怖いと思っていたけれど、不器用な優しさもひたむきさも今では誰よりも理解しているつもりです。


そう、心の中で呟いた。
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