花椿
家主は言いながら男の部屋の扉を開けた。

「あ……」

扉を開けた途端に血の匂いが鼻をついた。



生々しく畳の上に広がる赤い染み。

漣は、初めて眉を動かした。


赤い染みの上に幾つも花びらが散っている。


「椿の花……?」


漣の顔が表情を無くし、青ざめている。


「ああ、それは……不思議なんだ。
うちの庭にも、この近所にも椿の木は無いんだが、澤木さんの周りに散っていたんだ。
澤木さんを殺した男が持っていたのかね?」


家主が身震いしながら話した。



漣は椿の花を1つ、手に取った。


「拳銃で、胸を1発撃ち抜かれていてね」


赤く染まった椿の花。

それは、何故か漣を優しく穏やかな気持ちにさせた。


ああ……。

映像が指先から漣の頭に流れこんできた。


撃たれる……その刹那、花精は男と共に撃たれた。


男の身を庇うように、拳銃を手にした相手の前に立ち塞がり、男と共に胸を撃ち抜かれた……


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