花椿
「花の精、椿ですね」


「あ……絵のことはよくわからなくて、それは作者もわかはない掛軸だ。父の形見で、俺にとっては大切なものだ」


広げられた掛軸の花精をちらと見て男は頬を微かに染めた。


「いい絵です。祖父も喜ぶでしょう。でも……」


掛軸を巻く手を止めて漣は男を見上げる。

漣は、先ほど花精をちらと見た男の表情が気になっていた。


「手放さない方がよろしいのでは?」


「え?」


「後悔をなさいませんように」


男は、涼やかに微笑む漣の顔に戸惑いながら店を出た。



その晩のことである。

蒲団に入り、うつらうつらしていた漣はふと気配を感じランタンを灯す。


ランタンを手に廊下を抜けて店の襖をあけると、ぽぅと光る影がある。


漣は、ランタンの灯りを照らし目を凝らす。


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