花椿
『あの方は死ぬおつもりです』


ぴくりと漣の眉が動いた。


『あの方は追われていらっしゃるのです。
以前、組織のいざこざで過って人が死んでしまい……あの方のせいではなかったのに……』


さめざめと泣きながら花精は話した。


おそらくは、社会運動か何かだろうと思いながら、漣は花精に優しく尋ねる。



「詳しい事情はわからないが、彼なりに覚悟があって、おまえをここへ預けたのだろう?」



『いいえ……あの方は郷里を捨て財を捨て、追われる身になっても私をお連れくださいました。
私は最後まであの方とご一緒したい』


頬に幾つも涙を伝わせ、か細く話しながら花精は漣を見つめている。



ただ、見つめあうだけの思いか……

あの男は全てを失って尚、花精を手放さないほどに
花精は、男のために人に姿を映すほどに……恋に落ちた。

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