花椿
見つめあうだけの恋に。



漣は思い、「仕方ないな」と呟いた。



「明日、おまえを彼の所に連れていこう」



大事にされたものには思いが宿る……。



『ああ……ありがとうございます』


花精は手を合わせ深々と頭を下げたかと思うと、次第に薄くなり姿を消した。


椿の花が一輪、そこにあった。



ったく……かなわないな


漣は深く溜め息をつき、翌日。

男の家を訪ねて、昨晩の出来事を男に話した。


「泣いて離れたくないという訴えを無視するほど不人情ではないので、……手付けは返して頂かなくて結構です。
……そのかわり貴方にもし何かあったら、その掛軸は『雨月堂』へ渡すと一筆書いてください」


漣は男にそう告げて掛軸を男に渡し、書状を持ち帰った。

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