奥様のお仕事
そんなに広くない湯船だから肩が触れてしまう。


ドキン ドキン ドキン


「ごめんな つまらない思いさせて」


「仕方ないよ 文句言える立場じゃないし」
ふと嫌味も出てしまった。


「怒ってる?」


「別に 怒る身分でもないし」


「立場とか身分とかってどういう意味?」


「だって お仕事だもん
浩一郎に雇われてるんだから 私の分際で
文句言っちゃダメでしょ」


「そういう意味でか」
浩一郎がバチャンとお湯を手ですくって顔を撫ぜた。


「早起きだけど大丈夫なの?」


「昨日もっとよく見える星を一緒に見ようと
企んでたんだけどね慌てて起きた
今日は吹雪らしいし」


「え~~吹雪の露天風呂ってすごく楽しみ
今こんなに星が見えるのにね」


満天の空に 湯気と私の息が白く重なる。


「お料理すごく美味しかった・・・・・
女将さんが言ってた 
楽しませてくれようとしてたって」


「楽しんで食べてる顔が見られなくて残念だった」


さすがにのぼせてきた。


「浩一郎少し前に出て
のぼせちゃったから 絶対振り返っちゃダメだよ」


「あ わかった」

浩一郎が前に出たのを 確認して湯船のヘリに座って
タオルを長くして体を隠した。
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