奥様のお仕事
しばらく沈黙が続いた。
浩一郎は 話をするのも 辛そうだったから
ただ愛しい手だけを 私は握り続けていた。


「長谷さん」

看護師が 入ってきた。
慌てて立ち上がる。


「検査行きましょうね」


車いすに座らされて 浩一郎が言った。


「待ってて すぐ戻るから」


「うん」


青白い顔が 安心したように微笑んだ。



浩一郎が病室を出て しばらくすると


「失礼します・・・・・」カーテンが開いて 五月さんが立っていた。


あ・・・・・・・・
ずっと逃げていたこの現実に ぶち当たってしまった。


「その節は大変ご迷惑おかけしてしまって
申し訳ありませんでした」

五月さんも私に驚いて 慌てて頭を下げた。


「いいえ あ・・・・浩一郎なら 今 検査に行きました」



「あ そうですか。
大丈夫ですか?浩一郎さん これ・・・・食べるものは
多分ダメなんだと思ったのですが 奥様に食べていただければと」


五月さんの話が どうもかみ合わない。



「私もずいぶん ご迷惑おかけしてして心労がたたったのでは
ありませんか?本当に申し訳なくて」

他人事のような五月さんの言葉に混乱してきた。



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