奥様のお仕事

美しい人で　繊細な指が　鍵盤を舞うように　叩きまくる。
母親から教わるときは
厳しすぎて　受け止められなくなりそうだったけど
五月さんのレッスンは楽しかった。


姉ができたみたいで
学校の話や彼女の話とかいろいろ話すうちに
五月さんの優しさについつい
マリンの話をしてしまった。


「俺　頭おかしいでしょう」


「おかしくないわよ。
だって二十年後は　きっとお似合いになってるわ」


「その発想　何か嬉しいな」


「時を待つしかない・・・・
待てるならね・・・・・・・」



待つしかない
待てるなら・・・・・・・・

普通でいたいとも思う自分
夏絵とは長かったけれど　彼女というより
同士みたいな関係になってしまって


「どうして抱いてくれないの？
浮気してるの？」


責められるたびに　別れようと言い出せず・・・・
普通の仮面をかぶるのに

結局　夏絵を利用していたのかもしれない・・・・・。
非情な人間な自分を知り　傷つき　混乱しながら
普通でなければいけないと　必死だった。


健全な男じゃないのかもしれない
闇に引き込まれそうになる自分を理解してくれたのは


五月さんだった。