海辺で恋するシンデレラ ~ Side story ~
「亜紀ちゃん、ロブ・ロイ飲みながら“ナツのばか”って呟いてたよ」
マスターはグラスを布で拭き上げながらそう言った。
俺は、突っ伏して眠っている亜紀の顔を覗き込み優しく頭を撫でる。
「亜紀……ゴメンな」
「なに?亜紀ちゃんと喧嘩でもしたわけ?」
「まぁ、ちょっとね。マスター、悪いけど亜紀このまま寝かせてやってもいい?後で送っていくからさ」
俺は、上着を脱いで彼女の背中に掛けた。
風邪をひかせたくないし
それに亜紀は俺のものって他の奴らに牽制するために――。
「……前も、こうやって酔い潰れたことあるよな。亜紀ちゃん結構強いから、滅多にないけどさ」
そういって、俺の前にロブ・ロイを置くマスター。
「あぁ……あの時か――」
俺は、カクテルをそっと口に含んでチラリと隣に眠る亜紀の顔を見る。
そして記憶を辿るように、コトッとグラスをカウンターに置き
揺らめく赤い液体を見つめた。