海辺で恋するシンデレラ ~ Side story ~
「チッ、仕方ねぇなぁ。行くぞ、亜紀」
あ……普段、名前で呼んだことないのに。
つい、口に出して言ってしまった……恥ずかし。
「え、あ……待って」
ふいに名前で呼ばれ驚いたのか、一瞬大きく見開く瞳。
そして戸惑いながらも、慌ててソファから立ち上がる亜紀。
さっきまで苛立っていた気持ちが、波瑠の所為で少し削がれたのか
亜紀の小さな仕草が、可愛く思える。
けれど会っていなかった時間は大きなもので
なにを話せばいいのか、彼女にどんな言葉をかけていいのか分からない。
お互い無言のまま部屋をでて、廊下を歩いていく。
夜中とあって、廊下に響く足音は俺と亜紀のものだけ。