Love Butterfly
「慎一くんって、あの、暴走族、なん?」
「まあ、そうなるかなあ。チームは、組んでるけど」
「ケンカ、とかもするん」
「うーん、まあ、たまには。でも、俺らは、バイクが好きなだけで、悪いことしてるつもりはないんやけどなあ」
うちは別に、慎一くんとか、この「チーム」のみんなが、悪いとかいいとか、そんなんどうでもよくって、でも、ケンカとかするのはちょっと怖いから、聞いてみただけで、でも、やっぱり、ここにいたら、自由になれそうな気がするから、今日初めて話ししただけやけど、うちはここがすごい、居心地がよくて、学校より、家より、ずっと、ここが好きになってた。
 でも、もしうちが、「チーム」に入ったりしたら、パパもママも、絶対怒るし、お姉ちゃんも、きっと、うちのことまた叩く。でも、でも、でも……うちは、やっぱり、自由になりたい。うちも、友達がほしい。みんなみたいに、またハンバーガー食べたりしたい!
「うちも、仲間に入れて」
慎一くんは、びっくりした顔で、うちのこと見た。
「うちも、みんなとバイクに乗ったり、遊んだりしたい」
そういえば、うちは、今まで一度も、何がしたい、とか自分から言ったことなかった。
「お前、ええとこの子やろ?」
「……うちには、家族なんかいてへん」
「でも、あんなでっかい家に住んでるやん」
「あんなとこ、家、ちがう」
そうや。うちには、家族なんかいてへんねん。うちはずっとひとりぼっちやった。家でも、学校でも、どこでも、うちはずっと、ひとりぼっちやった。もう、ひとりぼっちはイヤや!
「ええで。いつでも遊びに来たらええ」
慎一くんは、にこって笑って、みんなに、
「今日から、京子もメンバーや!」って、言ってくれた。
イヤな顔されたらどうしようって、思ったけど、誰もイヤな顔なんかしなくて、みんな、よろしく、とか、仲ようしよな、とか言ってくれて、うちは、めっちゃ嬉しくて、泣いてしまった。
「なんや、どないしたんや」
「うち、めっちゃ嬉しい……」
「そうか。今日からみんな仲間や。嬉しいことも、イヤなことも、みんな一緒や」
慎一くんの言葉に、みんな、頷いて、うちはやっと、生きてるお友達ができて、生まれて初めて、生きててよかったって、思えた。うちはこれで、自由になれたって、思った。
「あ、チョウチョ」
 誰かがそう言って、こんな時間やのに、アゲハが、飛んでた。ひらひら、きれいな羽を広げて、アゲハは、ふわふわ、飛んでた。うちもいつかは、あんな風に、きれいな羽を広げて、飛んでみたい。大人になったら、アゲハみたいに、ひらひらと自由に飛んで、みんなに、きれいって言われたい。
「京ちゃんの、髪の毛に止まった」
アゲハは、うちの髪に一瞬だけ止まって、すぐにまた飛んで行ってしまった。いつの間にか、辺りはもう暗くなってて、ちょっと赤っぽいライトの中に、アゲハは、消えていった。

 うちはその日から、慎一くんのチームに入って、そして、うちは、「不良」になった。
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